「予告する! そのお宝を、頂戴する!」
凛として、淀みのない声が響く。通りがかった人々はその声の主を探して視線を右往左往させるが、全くもって見つからない。
「現れたな、怪盗!」
今度は先の声に比べると少なからず幼さを感じるとともに、強い意志を帯びたものだ。彼は長めのベージュのコートを靡かせ、金色の髪を揺らしてついに立ち止まる。その視線は上の方へと向けられていて、ついさっきまで予告の口上を述べた人物の所在を探していた双眸たちもそれに倣った。
とある建物の屋上に、ひとつのシルエットが浮かんでいる。遠目でもはっきりと映る臙脂色をした燕尾服にも似た上着の裾が、風に吹かれてはためいていた。目元だけを洒落たマスクで隠し、風に飛ばされてしまいそうなシルクハットを押さえる、その姿だけでも美しく絵になる。それこそ、巷を騒がせる怪盗ハナギリにほかならない。
「今日こそ、お前を捕まえてやる」
金髪の青年は息巻いているが、民衆は既にハナギリに釘付けだった。そんな様子は彼にも伝わっていて、悔しげに下唇を噛む。
「おい、モンイツ! いたのか!」
「誰がモンイツだよ、いい加減人の名前おぼえろ!」
金髪の青年――モンイツと呼ばれ即座に否定するあたり、名前を間違われているのだろうことは明白だ――は、彼の後ろを追いかけてきた青年に怒鳴った。目鼻立ちの美しく、黙っていれば美女と見紛われそうな青年も、やはりハナギリを見上げて見上げると露骨にひとつ舌打ちをする。
「今日が年貢の納め時だぜ!」
どう見てもハナギリを見上げる二人は劣勢に思われたが、彼らの目には強い闘志が点っていた。
